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碁法の谷の庵にて

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2015年01月21日
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 宮崎県で、強●(制限にかかるので伏字)被害者に対して告訴の取下げを迫った弁護人の言動に対し、批判があるようです。

 私個人としては、当初から今まで「ビデオの処分を種にしたのは問題があるのではないか」という感想を抱いていますが、言動の具体的な内容を始め不明瞭な点も多く、事情によっては別の見方も成り立つという指摘もある所ですので、この件に絞っての詳論は差し控えます。



 被害者のいる事件であり、かつ自白事件であれば、弁護人としては被告人に金銭を準備できるかを尋ね、その上で被害弁償をまず検討し、できれば被害者からの許し(減刑嘆願書)を得ようとするのが通例と言えるでしょう。
 仮に自白事件でなくとも、「故意はないと否認はするが、相手に損害を与えた・不愉快な思いをさせたのは事実なので被害弁償をし、被害者からの許しを得たい」ということも珍しいことではありません。
 幸い私は体験していませんが、完全否認だけれど軽い処分で済ませるために被害弁償したい、と申し出られ、弁護人が被疑者の救済と冤罪に手を貸すに等しい行為の是非の狭間で頭を抱えてしまうという問題もあるところです。


 量刑上も、示談・被害弁償の有無や被害者の処罰に対する意向は裁判所に非常に大きく考慮されます。
 被害者が処罰を望む意思表示をする告訴を行わない限りは裁判がそもそもできない、と言う親告罪もあります(冒頭で触れた事件の強●も親告罪です)。
 程度問題ではありますが、これらを量刑上酌むという現行の実務は被害者のためにも妥当だと思われます。
 なお、親告罪か否かで、被害弁償に向けた弁護人の努力の程度はほぼ関係ないと言えると思われます。(被告人の血相の変え方は違うかもしれませんが)

 さて、被告人が身柄拘束を受けている場合、この被害者との交渉には弁護人が臨むことになります。
 身柄拘束を受けていなくとも、感情的な対立や恐怖心があるケースが珍しくないため、弁護人にお願いする…と言うことも珍しいことではありません。
 弁護人としては、法廷や判決言い渡しの瞬間より緊張するかもしれません。




 そして、弁護人からの交渉申し入れに対する被害者の対応は千差万別です。

 淡々と応じてくれる方、けっこう多いです。

 量販店での万引きとかはマニュアル化されているのか、型通りと言う印象を受けます。

 こちらが「よろしいのですか!?」と言いたくなるレベルで気前よく受け取ってくれ、こちらから話題に出せなかった減刑嘆願書(減刑嘆願書は用意はしても、言い出すのは難しい)を向こうから書こうか?という方もいます。

 ちょっと止めて欲しかっただけなのに大事になってしまい申し訳ないと被害者に謝られてしまったということもあります。

 被害感情が激しく、目的を伝えた上で連絡先を検察官に聞こうとしたところ被害者の拒否の意向が伝えられ、実質それ以上の交渉を諦めざるを得なかった方もいました。

 あまりにも被疑者と言い分が違いすぎ、弁護人としても吹っかけを疑わざるを得ない方(裁判所もこちらの把握している被害のみ認定したりする)の話も聞きます。




 この中で、特に被害感情の激しい被害者との交渉は、しばしば問題になる事があります。
 被害者としては、犯人は一生刑務所に入っていてほしい、と言う強い処罰感情を抱き、そもそも交渉になんか応じたくないという例は珍しくありません。それは無理からぬことで、弁護人がとやかく言うようなことではありません。
 他方で、被告人としては、何とかよい量刑、ケースによっては告訴取下げまで至るために何とかしてほしい。
 弁護人としては被疑者・被告人の利益を最大化するため、強要とならない範囲で強めに交渉したいという希望が出てきます。

 そのために、弁護人としても頭を下げ礼を尽くすのは当然として、被害者に何とか飲んでもらうために様々な事実や今後の見込を伝えます。

 そしてその材料になるのが、示談に応じない場合に起こる、被害者にとって気分のよくないこと。
 否認事件であれば、当然検察の取った被害者の調書は不同意となる可能性大です。
 その場合、被害者には法廷に出て来てもらい、被害状況を証言してもらうことになります。「示談に応じない報復として不同意にする」ことは問題ですが、元が否認事件ならばどの道やる可能性が高いことです。
 思い出したくないと言って証言拒否をすれば制裁の対象になる上、あやふやな証言の結果無罪判決と言う可能性もあります。(無罪となった場合、報道の具合によっては、被害者が逆にバッシングに遭う可能性もある)
 ケースによっては被害者に不利な事実まで含めて提示することも刑事弁護上当然あり得ることです。
 また、被害弁償をする場合、その資金は本人が出せず、親などが息子・娘が釈放されるならと思って好意として出しているケースもしばしば。応じないまま裁判が終了すれば、親が資金を引き揚げてしまい、受け取れるはずだった金銭も取れない…と言うことも起こります。

 そういった見込を伝えると、弁護人としては強要したつもりがないのに、後で被害者に「あの時弁護人に示談しろ、さもないと・・・等と強要された」とすれ違ってしまい、懲戒請求などの大トラブルになってしまう…と言う例はしばしばあります。

 かと言って伝えなければ、後で裁判になって「こうなると知ってたら…」と言われることも考えられます。
 キュゥべぇよろしく「僕は告訴を取り下げてくれないかってお願いしたはずだよ。取り下げないと何が起こるか、説明を省略したけれど」・・・と開き直る弁護人がよいでしょうか?
 上記も、あくまで「一般論だから」割と気楽に言えることなのです。



 どこまでの交渉が許されるのか。これは、答えのない問題です。
 もう一切交渉をせず、民事裁判に任せておけばいい、と言う訳にも行かないでしょう。現に、気前の良い対応を取って頂ける被害者の方や、「犯人のより厳しい処罰と当座の金銭的な補償、どちらかを選ぶなら当座の金銭的補償が必要」とする被害者も多いのです。

 一度断られても諦めずに何回かはやるべきだが、ほどほどの所で辞めるべきで、その判断は個別に判断せざるを得ないだと書いてある刑事弁護の書籍もあります。
 拒絶されたにもかかわらず5回にわたり示談を要請したことで懲戒となった弁護士もいますから、やり過ぎは法的にも許されないことも明らかですが、何回以上という明確な基準は書いていません。
 
 私としては、弁護士会や日弁連はこの辺についてはある程度きちっとしたガイドラインでも作って(そこでは当然被害者側の団体等の意向も酌みいれて)臨むことを考えた方がよいのではないかと思いますが、作ったとしても事件も被害者も千差万別である以上、外れたから直ちにダメとも言えません。





 被害者の皆さんにこれが微妙なところなんだから我慢してくれと求めるのは無茶な話であると思います。
 そもそも、弁護人からの交渉に応じる義務がある訳でもないことです。

 ただし、事実として、弁護側の申し出に応じることが被害者にとって利益となるケースもあり得ること、弁護人もどうやって被害者を傷つけずに対応するか苦慮しているのが通例であること、しばしば被害者と弁護人ですれ違いが発生し、脅されたという話に発展することがあることは、知っておいていただければと思います。





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最終更新日  2015年01月21日 21時23分50秒
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